人工股関節の合併症 脱臼

人工股関節置換術

人工股関節について患者さんに説明するとよく聞かれることがあります。

「人工関節って脱臼するんでしょう?」

はい、その通り人工関節は脱臼する可能性があります。

こう言うと脱臼がこわくて手術を躊躇してしまう人もいるかもしれません。

もしくはもうすでに手術を受けた方は怖くて慎重になってしまうかもしれません。

結論から言うと、現代において脱臼は過剰に恐れる必要はありません。

本記事では、なぜ脱臼が起こるのか、なぜ脱臼をそんなに恐れ過ぎなくてもいいのか

についてお話させて頂きます。

なぜ脱臼が起きるのか

脱臼は、患者さん個人の特性、使用するインプラント、術前計画など、さまざまな要因が絡み合って発生します。

皆さんの左手をお椀型にし、右手をグーにしてその中に入れてみてください。

左手を動かさないようにしながら、右手をお椀の中で動かすと、大きく動かした際に右手の甲や手首が左手の指先にぶつかると思います。

これと同じく人工股関節にも「動かせる範囲」が決まっています。

その範囲を超えて動かそうとすると、右手のグーが「お椀」から飛び出してしまうように、股関節も脱臼を起こしてしまいます。

では、この可動範囲はどのように決まるのでしょうか?

過去のシミュレーション研究では、インプラントの設置角度によって可動範囲が変化することが明らかになっています。

つまり、最適な角度でインプラントを設置すれば広い可動域が得られるのに対し、不適切な角度では可動域が制限され、脱臼のリスクが高まるのです。

そのため、手術では最も適切な角度でインプラントを設置することが重要になります。

脱臼はどのくらいの確立で起きるの?

一般的には1-2%程度と言われています。つまり50-100人に1人ですね。

「そんなに起きるのか!」と思われたかもしれません。

実際わたしが整形外科になりたての頃は、よく救急車で人工股関節が脱臼した方が運ばれてきて整復をしていた記憶があります。

しかし近年その状況はかわってきています。

2023年の論文から以下のようなことがほうこくされています。

初回THA後の脱臼率は、過去60年間で確実に低下している。
手術アプローチの工夫、インプラントデザインの改良、手術技術の向上が主な要因。

脱臼率は50年間で3.7%程度から0.7%まで減少している。

van Erp JHJ, Hüsken MFT, Filipe MD, Snijders TE, Kruyt MC, de Gast A, Schlösser TPC. Did the dislocation risk after primary total hip arthroplasty decrease over time? A meta-analysis across six decades. Arch Orthop Trauma Surg. 2023 Jul;143(7):4491-4500. doi: 10.1007/s00402-022-04678-w. Epub 2022 Nov 10. PMID: 36357707; PMCID: PMC10293125.

0.7%といいますと、1000人に7人ほどになります。

このように脱臼は手術技術とインプラントの改良によって減少しつつあるのです。

さらに脱臼しやすい人、脱臼しにくい人がいます。

脱臼しやすい人に関してははっきりとわかってはいませんが、

高齢者(よく転ぶから?)

脊椎術後、もしくは脊椎に異常がある人

特殊な病態で筋力が異常に弱い方

などが挙げられます。

そのため通常の変形性股関節症の方の脱臼リスクはさらに低いということが予想されます。

脱臼はおそれなくていい?

もちろんそれでも脱臼は起きることがあります。

普通に生活していて突然脱臼する、ということは少なくなってきていますが、転んだりして外れることはあるかもしれません。

ただ健常な方でも転ぶと骨折をしたりするため、人工股関節を受けた方だけがリスクがあるというわけではないと思います。

私たち医療者としては患者さんとのトラブルを避けるために合併症についてはよくよく説明する義務があります。

そのため怖くなることもあるかもしれませんが、脱臼をおそれるがあまりやりたいことを控え、活動性が低下してしまうこともよくないと考えています。

まとめ

人工股関節の脱臼について解説しました。

また合併症についてのより深堀した話を今後もさせて頂きます。

最後まで読んで頂き大変ありがとうございました!

北陸股関節外科医

北陸の整形外科医であり股関節を専門にしています。股関節鏡治療、人工関節治療を得意としています。学位取得後にイギリスに留学し最先端の股関節温存治療を学んできました。
・医学博士
・日本整形外科学会専門医、リウマチ認定医
・人工関節認定医

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