NBAスパーズのVictor Wembanyama(ウェンバンヤマ)選手がなった血栓症とは?

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アメリカプロバスケットボールリーグであるNBA、そのNBAのサンアントニオスパーズ所属のヴィクターウェンバンヤマ選手をご存じでしょうか。

フランス出身であり昨年の新人王にも輝いた素晴らしい選手です。

身長221㎝で長い手足と技術を兼ね備えた選手であり、今後のNBAの顔となっていくであろう選手です。

そのウェンバンヤマ選手ですが、2月21日に右肩の血栓症と診断されたことが発表されました。

そのために今季の残り試合を欠場する見込みであるとのことです。

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今回はこの「右肩の血栓症」について整形外科の立場から解説したいと思います。

本記事を読めば、

血栓症とは何なのか

血栓症は試合を休まなければならないほど重症なのか

どのような治療を行うのか

今後ウェンバンヤマ選手の未来はどうなるのか

についての知識が得られます。

血栓症とは?

けがをして出血したとき、徐々にその血はかたまっていきます。

出血時には血液がかたまり止血してくれるのですが、

血管内の血液が不必要に固まった場合、血管がつまるために重大な障害を起こすことがあります。

この現象を血栓症とよびます。

人間の血管には動脈と静脈があります。

動脈血栓の場合は、心臓でつくられた血栓が脳に飛んだりする脳梗塞

脚の付け根の血管がつまって壊死が起こる閉塞性動脈硬化症などが有名です。

静脈の場合は、足の静脈がつまる下肢静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)

があり、この血栓が肺につまることで引き起こされる肺塞栓症があります。

一般的に私たち整形外科医が血栓と聞くと、下肢静脈血栓症を思い浮かべることが多いです。

動脈の血栓は、不整脈や、動脈硬化と言った病気が背景にあることが多く、

また静脈血栓症は下肢に多く起こりやすいからです。

しかしウェンバンヤマ選手の血栓ですが、報道では「右肩の血栓」と言われています。

これはおそらくは、比較的まれな疾患である鎖骨下静脈血栓症ではないかと推測されます。

この鎖骨下静脈血栓症のうち若年者やスポーツ選手に起こる上肢の血栓症をPaget-Schroetter症候群と言います。

これは鎖骨と肋骨の間の空間が狭い人(胸郭出口症候群)におこりやすく、反復する腕の動作による血管の圧迫などが原因で起こると言われています。

症状としては、上肢のはれや痛みがおこります。

超音波検査や、造影CTにて血栓の存在を確認して診断を行います。

おそらくウェンバンヤマ選手は上肢の痛みや腫れといった症状があり、医師の診察を受けて発見されたのではないかと思います。

どのくらい重症なの?

血栓症はおそろしい病気です。

静脈血栓の場合、その血栓が肺動脈に詰まった場合命にかかわることもあります。

過去には若い男性がPaget-Schroetter症候群のために肺塞栓となり血栓溶解療法を行われたという報告もあります。Negrão Pantaleão A, Goudot G, Becari L, Jeunon V, Andrade Bello G, Gallo de Moraes A. Pulmonary embolism following an undiagnosed Paget-Schroetter syndrome: a case report and review of the literature. Phys Sportsmed. 2024 Aug;52(4):414-420.

この方は一命をとりとめたようですが、発見が遅くなると致命的にもなりえます。

そのため何らかの治療が必要になります。

どのような治療を行うの?

血栓をとかすような薬を使用します(抗凝固薬)。

また重症例の場合はカテーテルを用いて血栓を直接とかすことも行うようです。

また胸郭出口症候群がある場合は、肋骨切除などの外科的手術を行う可能性もあります。

血栓を溶かす薬は全症例で必須であるため、ウェンバンヤマ選手はまずこれを行うのではないかと考えられます。

スポーツ復帰できるの?

Keller RE, Croswell DP, Medina GIS, Cheng TTW, Oh LS. Paget-Schroetter syndrome in athletes: a comprehensive and systematic review. J Shoulder Elbow Surg. 2020 Nov;29(11):2417-2425. doi: 10.1016/j.jse.2020.05.015. Epub 2020 Jun 9. PMID: 32868012.

こちらの論文では、適切な治療後85%以上が元の競技に復帰可能であり、平均復帰期間は3カ月程度であったと報告しています。

重症度や、競技の種類によっても大きく異なるため一概には言えませんが、少なくとも今季に復帰することは難しいのかもしれません。

また胸郭出口症候群がある場合、同じスポーツ復帰をすると再発の可能性も懸念されます。

そのためウェンバンヤマ選手にはしっかりと治療に専念していただきたいと思います。

血栓の再発がないことを確認したのちにまた素晴らしいプレイを見せてくれることを期待しています。

まとめ

NBAで活躍中のウェンバンヤマ選手の血栓症について解説しました。

情報が少ないため推測の域を出ておりませんので、ご理解のほどをお願い申し上げます。

北陸股関節外科医

富山、石川、福井の北陸で整形外科医をしており股関節を専門にしています。股関節鏡治療、人工関節治療を得意としています。学位取得後にイギリスに留学し最先端の股関節温存治療を学んできました。
・医学博士
・日本整形外科学会専門医、リウマチ認定医
・人工関節認定医

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