
股関節の病気について調べたことがある方なら股関節唇(こかんせつしん)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
股関節唇とは何でしょうか、また股関節唇をいためるとどのような症状がでるのでしょうか。
本記事では股関節唇について詳しく説明いたします。
股関節唇は私たち股関節の専門家の中でも非常に興味深い構造物です。
そのためまだわかっていないことも数多くあります。
本記事を読めば股関節唇についての全体像を知ることができます。
股関節唇とは
股関節唇(こかんせつしん)は、股関節のお椀側である寛骨臼(かんこつきゅう)の外周に位置しています。
この構造は、関節の安定性を保ち、衝撃を吸収し、滑らかな動きをサポートする重要な役割を果たしています。
股関節はボールとソケットの関節であり、股関節唇はこの関節の「ゴムパッキン」のような機能を持っています。
股関節唇損傷をするとどうなるの?
股関節唇が損傷すると、以下のような症状が現れることがあります。
- 痛み: 特に股関節や鼠径部(そけいぶ)に痛みを感じることが多いです。
- 可動域の制限: 股関節の動きが制限され、特定の動作で痛みを伴うことがあります。
- クリック音や引っかかり感: 股関節を動かす際に、クリック音がしたり、引っかかる感じがすることがあります
以上が一般的に言われている股関節唇損傷の症状です。
このような教科書的な情報よりも実際に股関節唇損傷を経験された方の話を伺う方が分かりやすいと思います。
日本股関節研究振興財団のホームページに飯田先生の股関節唇損傷自己体験記が掲載されています。
一般の方にも公開されておりますのでぜひご一読して頂けたらと思います。
文章を引用させて頂きますと、
特に誘因なく右股関節が痛くなりました。徐々に色々な動作で痛くなり、椅子に座る時に痛い、階段を上る時痛い、靴下を履きにくい、立ち上がりで伸ばしにくい、寝返りで痛い、時に耐えられない瞬間的痛みがある、動き過ぎると翌日ずっと痛い、等などの症状です。
股関節唇には神経終末が存在していますので、股関節唇を損傷するとかなりの痛みが起こることが予想されます。
また損傷にも色々な種類があり、
切れたり、めくれかえったり、はがれたりすることがあります。
特に関節の中に挟み込むようにめくれるとかなり強い痛みがおこり、骨頭に圧力がかかった結果骨頭がつぶれてくる恐れがあるという研究もあります。
Fukui K, Kaneuji A, Fukushima M, Matsumoto T. Inversion of the acetabular labrum triggers rapidly destructive osteoarthritis of the hip: representative case report and proposed etiology. J Arthroplasty. 2014
股関節唇損傷の原因
股関節唇の損傷は、以下のような要因によって引き起こされることが多いです。
- 加齢: 年齢とともに股関節唇が劣化し、損傷しやすくなります。
- FAIや形成不全: 股関節の形状異常(FAIや股関節形成不全)により、関節唇に過剰な負荷がかかり、損傷が生じることがあります。
FAIについてはこちらで解説しています
スポーツ活動: サッカーやバスケットボールなど、急な方向転換やジャンプを伴うスポーツでは、股関節に強い衝撃が加わりやすく、損傷のリスクが高まります
画像検査
身体診察にて股関節唇損傷が疑われた場合に画像検査を行います。
股関節唇損傷を調べるため唯一の方法はMRI検査です。
近年エコーによる診断にも注目が集まっていますが、やはり万人に分かりやすいのはMRIだと思います。
MRIも質の高い撮影方法でとらないとはっきりとした股関節唇損傷は分かりません。
私の外来に来られる患者さんでも、他院でのMRIで診断ができなかった方もいらっしゃいます。
その際は2度手間になって申し訳ありませんが再度撮影し直すことにしています。
治療
先ほど紹介しました、飯田先生の記事からとても重要なご意見がありました。
最新の診断と治療技術を持たれている医師にかかると、すぐ精密検査、図に示すような股関節鏡手術となる可能性があります。小生は15年以上前からこの病態を理解し、多くの患者さんを診ておりますが、7割の方は自然治癒します。
仰る通りで股関節唇損傷の初期治療は、適切なリハビリ、注射などになります。
痛みを誘発しないことも大事ですね。
なかなか改善しない場合や、痛みが強い場合は股関節鏡による治療を行います。
股関節唇を縫合したり、また股関節唇がなくなっているような場合は移植をすることもあります。
しかしここで重要なのは、なぜ股関節唇損傷がおこったかです。
FAIや形成不全がある場合は、痛みが改善しても再度痛みが起こる可能性もあるでしょう。
また年齢によるもの(変形性股関節症)の場合も同様で、軟骨のすりへりが進行すれば痛みは改善しないことが予想されます。
股関節唇損傷の治療ではその背景にある病態を知ることが重要です。
まとめ
股関節唇は、股関節の安定性と機能に重要な役割を果たしています。
損傷が発生すると、痛みや可動域の制限が生じるため、早期の診断と適切な治療が重要です。
本日も最後まで読んで頂き大変ありがとうございました!
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